モントレー2015 眞貝選手レポート

モントレー2015 眞貝選手レポート

皆さん、こんにちは。

ムゼオ チンクエチェント レーシングチーム ラリー部門ドライバー 眞貝です。

2015年の全日本ラリー選手権も第6戦を迎え、シーズンも中盤を折り返しました。
我が mCrt は、開幕戦(唐津)は幸先良く優勝、第二戦(久万高原)は目の前の勝利をミスでフイにし、そして第3戦(若狭)はリベンジ優勝と、良く言えば波乱に満ちた戦績で戦ってきましたが、第4、5戦はグラベル(未舗装路)でのラリーであったため、当初計画どおり参戦をスキップとしました。

シリーズの戦いに復帰する本戦「モントレー 2015 in 嬬恋」は、”あの”群馬県でのラリー。
群馬県は伝統的に数多くのトップドライバーを輩出してきており、その群馬で開催されるラリーで優勝するということは、日本で生まれたラリードライバーにとってどうしても達成したい目標です。

なぜこんなことを書いたかというと、実は僕、群馬のラリーで優勝したことが無いのです。
さらに言えば、現在全日本戦として開催されているターマック(舗装路)ラリーで、唯一群馬でだけ優勝できていないのです。
極端に言うと「群馬で勝てない間は引退できない」、それくらいの強い憧れを抱いた夢舞台なのですが、しかしながら今年もまた、ラリーの神様はご褒美をくれませんでした。

二日間のラリー、最後の最後でライバルに逆転され悔しい2位となってしまいました。

もちろん、プロとして「勝てなかった」ということに対しての責任、至らなさはすべて僕自身の能力不足にあることに変わりなく、優勝を期待してくださっていたファンの皆様には本当に申し訳なく思っています。
ところが、いつもどおりラリー後、いろいろな「たら れば」に考えを巡らせてみても、
”このコンディションの中では ”不思議ともっともっと悪い方向の結果のシーンしか想像ができず、、、
一言で言えば「やるべきことをやりきった2位」に充実感のようなものを感じているのです。

”このコンディション”と書きましたが、今回のラリーはコンディションの他にも、いつものターマックラリーとは異なるポイントがいくつかありました。
その一つは「タイヤ規制」。普段のターマックラリーで用いている競技用のタイヤ、通称 Sタイヤに該当する銘柄の使用が主催者により禁止され、新しいタイヤで走る必要があったこと。
そしてもう一つは「グラベル区間の使用」。ラリー全体のステージ距離からすると10%程度と少ないのですが、戦略によってはグラベル用のタイヤを使用することもでき、勝負の予測を立てることを難しくする要素になっていました。

そのような中、今回僕らが使用したタイヤは、ダンロップさんの DIREZZA ZII★β02 という意欲作。
ご存じのとおり主にトヨタ86によるワンメイクレースなどで大活躍しているタイヤです。
ご覧のとおり、Sタイヤ顔負けの過激なトレッドパターンですが、事前のテストの感触は上々。
過激な外見とは裏腹に、ピークグリップの高さだけではなく、その”扱いやすさ”に秀でた、新世代のスポーツラジアルタイヤというのが僕の率直な印象です。
ただし、事前のテストは真夏の晴天下での実施。ウェットコンディションでのパフォーマンスを予測するのは難しく、出たとこ勝負は避けられないという状況でした。

大会前週に台風が通過し、週末に向けた天気予報が毎日のように変わる中、レキ(コース下見)が行われた金曜日の時点での天気予報は「土日とも雨」。
雨量こそ変動しそうな気配がありましたが、晴れ渡った完全ドライでの戦いの可能性は0と、難しい展開になることは間違いありませんでした。

しかし、こんなトリッキーなラリーに向けた僕らの作戦はただ一つ、「ターマック最速のチームとして、ぶれずにやり抜く」。
つまり、たとえウェットコンディションになろうとも、ステージの多くの割合を占めるターマック区間で十分なマージンを稼ぎ、たとえライバルが2日目のグラベル区間でタイヤ選択勝負に出たとしても、そのビハインドは貯金をコントロールして勝ち切る、ということでした。

かくして迎えた大会当日、前日の予報に比べ雨脚が強くなるなか迎えた最初のSSは、なんと、シーズン中の全ラリーを通じての最高速度をマークするステージ。
ウェットで走ったことのないタイヤで190km/hの世界に挑めと言われても、、、その心理状況は想像していただくしかないのですが、スタート直後のまさに最初のブレーキングで完全ノーグリップのハイドロ(アクアプレーニング現象)に見舞われ、その原因がタイヤにあったのかそのコーナーの路面状況にあったのか自分自身で確信できるまでは「ゆっくり」だ!と、2つほどのステージはかなり慎重なペースで戦いを進めました。

そんな心理状態の落ち着きとともに雨も上がりかけた SS3で、不思議なものですね、ある瞬間に
「このタイヤが十分にパフォーマンスを発揮できるコンディションの境目」
ということが直感的に理解できたんですが、ここからはもう何の遠慮もなく一気にスパート。序盤2ステージのくすぶったタイムの印象は自分として到底受け入れがたく(笑)、夢中でタイムを稼ぎまくりました。
その結果、一日目が終わってみれば無事クラストップまで上がりきり、マージンをもって二日目につなげることができました。

そしてグラベル区間が出現する勝負の二日目。
天気は、土曜日にも増して強い雨模様。朝起きて窓の外を見た瞬間、「こりゃいかん」。。
初日のタイム差を考慮し、ライバルチームのうちどこかがラリータイヤを選択してギャンブルに出てくることを悟りました。

ここまで雨量が多く、ひたすらハイドロのリスクとの戦いになる状況となってしまうと、残念ながらDIREZZA ZII β02でターマック区間を走るアドバンテージはより少なく、逆にグラベル区間でラリータイヤを使用するライバルはますます有利な状況となってしまいます。
とはいえ、我々は「やるっきゃない!」。
初日、ターマックステージできっちり走り切ったからこそ得られたマージン、これは2日目もターマック勝負で受けて立つしかなかったのです。

少しでもターマック区間で雨量が減ってくれれば、と祈り続けてステージに向かいましたが、残念ながらそこは「シャワーを浴びているような」雨。こうなるともうタイヤのグリップ力云々という状況ではなく、はやる気持ちを抑えて「どこまで我慢できるか」という自分との戦いになります。
トップを走りながら自滅した第2戦久万高原のようなことは二度と繰り返すことができないという思いも胸に慎重かつ正確なドライビングに努めながら、全区間ターマックで構成される朝一番のSS、そしてタイム確認の間もなく続くグラベル主体のステージをひとまとめで終えてみると。。

初日2位のライバルは最初のステージで転倒クラッシュからリタイヤしたものの、大胆にもラリータイヤを選択した初日3位のライバルには、最初のターマックSSではわずかコンマ数秒の差しかつけられず、逆にグラベル主体のSSではなんと16秒もの差をつけられていることが判りました。
さらに「泥沼状態」となった浅間サーキットでのショートSS、僕らにはなすすべもなくさらに差を縮められ、、、

午後には同じ構成のリピートステージを控えており、午前中のこの2ステージでの自分たちの「余力」を考慮すると、残念ながら今回は優勝よりも確実な完走を優先しないといけないという意見でコドライバーとも一致し、お昼のサービスパークでチームとも話し合い、同意してもらいました。

というわけで、外からみると逆転は最終ステージで起こったわけですが、実は午前中のセクションを終えた時点で、残念ながら理論上勝負が決まってしまっていたのでした。

なぜ、こんな結果のラリーでもなお充実感を得ているか、、
新しいタイヤで、走ったことのないウェットコンディションの中、マシンを確実にコース上にとどめる”勇気のスローペース”で入り、その後、全力スパートへのスイッチをきっちりと入れられたこと。
そして二日目の豪雨の中でも、ターマックSSではベストタイムを守り切り、この車で初めて走るグラベル区間でも決して他のターマックタイヤ勢に遅れずに走りきれたこと。。。
敗因を上げるとすれば(もちろん作戦立案者としての僕が悪いのですが)コンディション予測の幅と備えが足りなかったことに尽き、当日、そこにある道具の100%の力を活かして走りきったことに対して、ドライバーとして「やり切った感」があるのです。

第3戦若狭で感じた車両セットアップ上の課題も、今回のモントレーに向けて施した変更がかなり当たっているということも確認できましたし、次の戦いが楽しみで仕方ありません。

次回の参戦は10/16-18に岐阜県高山市近辺で開催される伝統の一戦「ラリーハイランドマスターズ」です。
去年、マシンを大きくクラッシュさせてしまった悔しい思い出のあるラリーなので、必ず自分自身にリベンジを果たしたいと思っております。

引き続き、mCrtのABARTH 500 RALLY R3Tへの応援をよろしくお願いいたします!!

mCrt_ABARTH_2015montre077スタート前のサービスパーク。どれほどの雨量だったかが判ると思います。。

 

mCrt_ABARTH_2015montre096ラリーはいきなり二車線の超高速コースからスタート。ウェット未経験の新タイヤでのアタックは、、シビれました。

 

mCrt_ABARTH_2015montre108天候がやや回復したデイ1後半では一気にスパート!

 

mCrt_ABARTH_2015montre092デイ2、このようなコンディション下ではさすがにターマックタイヤではタイムを稼げず。。

 

mCrt_ABARTH_2015montre127コドライバーの漆戸さんも難しいコースのペースノートをノーミスで読み上げてくれました

 

mCrt_ABARTH_2015montre078雨の中ずぶ濡れになりながらマシンを完璧にメンテしてくれたチームメンバーにも感謝です!

 

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